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最高裁判所第二小法廷 平成6年(行ツ)188号 判決

東京都東村山市廻田町三丁目一九番一三号

上告人

蒔田義夫

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被上告人

特許庁長官 高島章

右当事者間の東京高等裁判所平成四年(行ケ)第九七号審決取消請求事件について、同裁判所が平成六年六月一四日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に基づき又は原判決を正解しないでその法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大西勝也 裁判官 中島敏次郎 裁判官 根岸重治 裁判官 河合伸一)

(平成六年(行ツ)第一八八号 上告人 蒔田義夫)

上告人の上告理由

一、 原判決は、実用新案法第三条の二のカツコ、および、タダシ書きの規定に反しているので違法である。

実用新案法 542

(同前)

第三条の二 実用新案登録出願に係る考案が当該実用新案登録出願の日前の他の実用新案登録出願又は特許出願であって当該実用新案登録出願後に出頭公告又は出願公開がされたものの願書に最初に添附した明細書又は図面に記載された考案又は発明(その考案又は発明をした者が当該実用新案登録出願に係る考案の考案者と同一の者である場合におけるその考案又は発明を除く。)と同一であるときは、その考案については、前条第一項の規定にかかわらず、実用新案登録を受けることができない。ただし、当該実用新案登録出願の時にその出願人と当該他の実用新案登録出願又は特許出願の出願人とが同一の者であるときは、この限りでない。(本条追加、昭四五法律九一)

1、 産業の米といわれる半導体を例にして原告の主張をする。

半導体の発明は、昔の砿石ラジオ用の天然砿石によって着想を得たものである。

その天然砿石がもつ特性を人造の材料によって同じ性能を備えたものを研究開発したのが半導体である。

しかし、初期の半導体は、質的にも、製造方法でも様々な点び欠陥が多く高価であった。利用分野も未知ひ限りれていた。

その為、半導体メーカーは年々巨額の研究費を投じ、多くの研究者を投入して、質的改善、製造法の改良、利用方法の開発に努力して、品質の向上と共に利用範囲も拡大していった。

そして、それうの成果は一朝一夕に得うれたものではない。長い年月の間に、質的改善も、製造法も、利用範囲の拡大も一歩一歩前進して、数々の研究と改良の積み重ねによって現代の産業の米といわれるようになるまでに発展したのである。

以上のように、研究改良が進む過程ひ、改良された新技術は直ちに特許、または、実用新案として出願され、改良された新製品は市場に出荷される。

前記のように、改良の為の研究投資、そして新改良技術の出願、新改良技術による新製品の出荷、また研究改良と同じ過程が繰り返されるが、このような同じ課題の研究改良が繰り返される過程は、半導体に限らずすべての製品に共通することで、同じ企業による同じ課題についての特許や実用新案の出願が数多く続くのはその為である。

従って、半導体の例のように、同一課題の研究改良が段々に発展する場合、先に研究改良された先行技術の知識が次の新しい研究改良の基盤になる。

従って、後から改良された新技術を特許や実用新案として出願する場合、先行技術が基盤になっている為、後願の明細書の詳細な説明では、必然的に先行技術と関連する事項を記載することが必要になる。また、そのように定められている。

従って、前記のような過程で研究改良が発展する為、特許や実用新案を出願する場合、先願と後願の発明者や考案者、または、出願人が同一人になるが、それに対し、明細書に同じ課題についての関連記載があるてとを理由に同一人の先願を後願に対する拒絶理由にすると、企業は同じ分野の課題について研究改良を続けても特許や実用新案として認めうれないことになるので、研究投資が無駄になる為、改良の為の研究投資ができなくなる。

そのようなことになると、特許法や実用新案法の制定目的である技術や産業の発展とは逆に、それらの目的を狙害する要因になるので、国の技術立国政策や企業の存立にも影響する重大事になる。

また、同じ課題を研究改良する場合、同じ課題を同じ研究者が継続的に研究して技術知識を多く蓄積した方が有利であり、研究期間も短縮でき、研究投資も節減できるので経済効果もより高くなる。

その為、特別の理由が生じない限り、企業では研究者は継続して同じ課題の研究に従事する。

以上のような理由で、同じ課題で、自分の先願が自分の後願に対する拒絶理由にならないようにする為に定められたのが、特許法第二九条の二と実用新案法第三条の二のカツコ、および、タダシ書きの規定である。

2、 発明と考案は大発明と小発明の差にすぎず、本質的には全く同じである。その為、特許法と実用新案法の条文が全く同じ場合がある。

例えば、特許法第二九条の二と実用新案法第三条の二は、特許と実用新案の文字が入れ代わるだけで、他は全く同じである。

そして、添付甲第四号証の特許庁編発明協会発行昭和六一年版工業所有権法逐条解説抜粋の凡例の説明では、実用新案法の条文のうち、特許法と同一趣旨であるものについては、説明を省略し、参照すべき特許法の条文数を示すとなっていて、実用新案法第三条の二の場合は、特許法第二九条の二と同じ趣旨であることを示している。

条文の趣旨が異なる場合は、改めて趣旨説明をする。

即ち、原判決では、甲第三号証特開昭和五一年第二二二九七号の引用公報によって当業者が本件考案を容易に考案できるとして棄却理由にしているが、引用公報の発明者、および、出願人は、本件考案の考案者、および、出願人と同一であり、従って、原判決は実用新案法第三条の二のカツコ、および、タダシ書きの規定に反し違法であるので、原判決を破棄して、更に相当の裁判を求める。

以上

(添付書類省略)

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